人事はヒトゴトか?

組織論、人材開発、人工知能に関するトピックについて書いていく。学術的観点と人事の実務の両方の視点を大切に。

今後の雇用・労働政策の動向

世耕経産相がNHKのインタビューにて新卒一括採用の見直しを促す考えを示した。

 

"世耕大臣は、卒業予定の学生を特定の時期にまとめて採用する「新卒一括採用」について、「実施する企業は多いが、かなりの比率で新入社員が辞めている。採用される学生も採用する企業も、このやり方は負担だと思っている」と述べました。"(2016年8月4日NHKニュース)

 

確かに、新卒一括採用方式は功罪あるが、新入社員の離職率が高い原因を採用方法のみに帰責するのはおかしい。企業規模別の入社3年以内の離職率で見ると、1000人以上規模で22.8%、500~999人規模で29.3%、100~499人規模で32.2%(2012年入社 厚労省調べ)と企業規模が小さくなるにつれて高くなるが、通年採用方式を導入している企業の比率も企業規模が小さくなるにつれて高くなる。(2014年産労総研、2006年JILPT)つまり、通年採用を取り入れている中小企業の方が新入社員の離職率が高いのが現実である。

 

1億総活躍プランの一環で同一労働・同一賃金も検討されているが、そもそも雇用・労働政策は、採用や賃金といった個別のテーマで検討すべきではない。同一労働・同一賃金に関していえば、コース別人事管理の下でのキャリアパスの見直しが必要であろうし、通年採用であれば入社後の初期教育のあり方も変える必要があろう。さらに、これらの施策の流れの先には、日本における労働市場の流動化と拡大を見据えないと、企業のみがコスト増に苦しむことになる。労働市場の流動化と拡大のためには、解雇要件の規制緩和(解雇の金銭解決の促進など)と企業外での職業スキル養成の充実(大学教育の職業的レリバンスの向上など)が必須である。

 

大内伸哉氏が指摘しているように、労働政策の中で耳障りのいいものだけを取り上げた形になっていて、改憲を見据えてのポピュリズム政策の色が濃い労働政策である。衆参両院で過半数を取り、安定した政権運営を行うことができる今だからこそ、痛みを伴うものも含めて、日本の雇用・労働環境を抜本的に改善する労働政策に取り組んでもらいたいと切実に思う。