人事はヒトゴトか?

組織論、人材開発、人工知能に関するトピックについて書いていく。学術的観点と人事の実務の両方の視点を大切に。

長時間労働に関する報道・論評の根本的な間違い

長時間労働の報道でよく見かける主張が、「現在の労基法では、36協定を締結し、特別条項を設ければ、事実上無制限に残業をさせることができる」というもの(この後に、「だから残業時間の上限規制を罰則付きで設けるべき」という主張が続くことが多い)である。

 たしかに、こうした36協定と特別条項の締結が合法であることは事実である。では、実際にこうした手法がはびこっているかと言われれば、それは誤りだ。厚生労働省の「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」によれば、特別条項を締結している事業場は40.5%で、そのうち98.6%の事業場が限度時間を厚労省が告示している限度基準の年間360時間以内としている。(※企業数ではなく、事業場数で算出されているのは、36協定の締結が企業単位ではなく事業場単位と労基法で定められているため)

 「事実上無制限に残業をさせることができる」ことはテクニカルに可能であるが、実態としてそうした企業はほとんどないのが事実である。

 つまり、すでに協定の締結内容については、厚労省の告示した限度基準が上限値として機能しており、現行の限度基準またはそれに類する基準を上限として法制化しても、現在の長時間労働の問題は解決しないのである。この点が、多くの報道・識者のコメントで世論がミスリードされている。さらに悪いことに、問題解決能力を有すると期待された政労使の三者も働き方改革会議でこの点を見誤って、実効性のない結論に行き着いてしまった。働き方改革会議の提言については、また日を改めて論じたいと思う。

 

追記:Nippon.comという海外向けの日本情報発信サイトにて、「日本の過労死とその防止策」という記事(http://www.nippon.com/ja/currents/d00310/)が配信された。過労死と長時間労働に関する筆者の記述は、前述した誤認識に基づいており、こうしたミスリーディングな記事が全世界に向けて配信されていることは非常に残念である。